前編に引き続き、株式会社ベホマル代表取締役社長の西原麻友子さんにお話を伺いました。
後編では、起業家の道を選んだ理由や、滋賀県でスタートアップをするメリットと苦労した点、ものづくりスタートアップへのアドバイスについて、紹介します。
新しいことがしたい。だから起業家を選んだ。
2022年4月、事業構想大学院大学に入学した西原さん。
目的は、社内で新規事業を始めるためのアイデア出しでした。
同級生は、全員社会人。年齢も職種もさまざまです。
平均年齢40代、60歳以上の方もいました。
みなさん、すごくモチベーションが高いんです。
ディスカッションを経て自分の視野の狭さに気付かされました。
また、経営者の方と話して知ったのは、“経営者だからできることの多さ”です。

苦しさもあるけれど、圧倒的に楽しいことが多い。
まず動いてみろといった話を聞き、刺激を受けた西原さん。
試しに滋賀県の起業助成金を申請してみたら、通っちゃったんです。
これはもう起業するしかないなと(笑)。
私の原点は「何か新しいことがしたい」という気持ちです。
会社員として新規事業をする選択肢よりも、「自分でやりたい」「スピーディーに動きたい」という気持ちから、起業家を選択しました。
社外に出て気づいた、多方面からのスタートアップ支援
西原さんは、会社員時代からスタートアップの話を聞く機会がありました。
しかし、当時はあくまで他人事。
それでも、夢を追いかける姿に憧れがあり、自分もチャレンジする道を選択しています。
最初から、私はスモールビジネスではなく、スタートアップだと思っていました。
同時に個人事業主だと株式投資ができず、資金が集められないため、法人一択でした。
また大企業の中で研究していたときは、意見も資金も社内から得るものだと思っていました。
外に出て初めて気づいたのが、行政、企業、コンサルの方などスタートアップ支援をしてくださる方の多さです。
支援者もいる。資金を調達する方法も、たくさんある。
デットやエクイティなどの言葉を初めて知った西原さん。
売上が全く立っていないのに、資金調達できる仕組みを知ったときは、目から鱗だったといいます。
西原さんの資金調達は、エンジェル、個人投資家から資金を入れてもらったことから始まりました。
ベンチャー企業の社長を務める兄が出してくれたことが、一番大きかったです。
今は、銀行からの融資なども紹介いただけるようになりました。
でも、会社設立時点では、銀行も金融公庫も「ちょっと厳しい…」という反応だったことは、スタートアップを考えている方に、知っておいて欲しい事実です。
滋賀県のスタートアップで苦労した3つのポイント
まず、1つ目は、スタートアップに関する情報も人数も少ないことです。
苦戦し、私は京都、大阪に行くことを選択。
スタートアップ支援している京都銀行に行き、キャピタルの方を紹介いただいたり、大阪で登録して情報をもらったりしました。
もしも東京で事業を始めていたら、このような苦労はしなかったかもしれません。
しかし、コロナ禍を経て、地方のスタートアップのメリットも生まれていました。
オンラインの一般化です。
東京のキャピタルさんとも、オンラインで全部話せるようになり、距離を気にする必要がなくなりました。
アポさえ取れれば、いくらでも会ってもらえる。
これは、すごくよかった点です。
2つ目は、“スタートアップ”の認知度の低さ。
西原さんの周囲にも、スタートアップの言葉を知らない人が多く、言葉の説明から始めることに。
さらに、「起業」の括りのなかにも「スタートアップ」「ベンチャー」「スモールビジネス」など、いろいろな情報があり、自ら選んでスタートアップの情報を取りに行く必要があります。
実際、行ってみたら違ったこともありました。
また、女性起業家自体が少ないなかで、スタートアップの女性起業家は、さらに限られます。
ロールモデルの方を探すことも苦労しました。
大阪や東京まで足を運んだものの、スタートアップのなかでも、多いのは、アプリケーション系。
ものづくり系スタートアップかつ女性という条件では、ほぼ見つかりませんでした。
世界レベルで探さなければ、見つからないんじゃないかと思います。
そもそも、同じスタートアップでも、システムやアプリケーション系とものづくり系では、時間感覚も必要なコストも、全然違うもの。
話す中で違和感を感じることもありました。
そして3つ目は、弁理士、弁護士、税理士など、士業の方を見つける難しさです。
滋賀県は企業のお抱え弁理士さんが多く、個人事務所自体の数はそれほど多くありません。
また、私のビジネスにとっては、特許は命綱です。
材料系や化学系、スタートアップ系に強い方を見つけるために、県外に行って探しました。
地方・滋賀県でスタートアップをやるメリット
製造業が盛んな滋賀県。
製造業の研究開発職の方と知り合える、企業数が少ないがゆえに目立ち、応援してもらえる。
行政からの支援も手厚いなどのメリットが挙げられます。
もうひとつ、地方ならではのありがたさは、土地が安いことです。
東京で起業していたら、同じ資金でこんなに大きなラボを持つことは、おそらく無理だったと思います。
これは地方、滋賀ならではのいいところですね。
また、起業当時は銀行からの資金調達が難しく、悩んでいた西原さんですが、1年以上経った今では、状況が大きく変化しています。
潮目がよくなったきっかけは、ピッチに出たことです。
ピッチに出ていろいろなメーカーさんとつながり始めたことが1つ。
そして、2つ目は、エンジェルさんから資金調達ができたこと。
一番大きかったのは、立命館大学と共同研究を始めたことです。
立命館大学のシーズ集を見て、滋賀県の創業支援プラザの方に相談した西原さん。
その後、立命館のインキュベーションにつながり、紹介を経て、打ち合わせを開始しています。
打ち合わせ当日にNDAを結び、共同研究が決まりました。
このスピード感は、スタートアップならでは。
大学との共同研究により、信用面のラベルがつきました。
先生には、本当に感謝です。
地方でハードウェア系のスタートアップを始める方へのアドバイス
私の考えは「東京に行くよりも、地方でやりなさい」です。
その理由として、最近、多くの地方自治体で、スタートアップを誘致していることが挙げられます。
地方には、広い場所とお金があり、支援もしてもらえる。
情報に関しては、インターネットで入手できるので、なんとかなります。
でも、ものづくりをやるからには、ラボは絶対に必要です。
ラボと設備は必要で、必ず固定費がかかるため、工業試験場が使えるなどの条件も重要。
最初から高いお金をかけてやるのではなく、小さく始める方がいいと思います。
