前編に引き続き、浅小井農園株式会社代表取締役社長の関澤征史郎さんにお話を伺いました。
後編では、順調に見えた事業承継の裏側、資金面の苦労や資金調達のポイントなどをお届けします。
立て付けに襲われた第1波、第2波
2020年10月、松村務(現:取締役会長)さんから経営を承継した関澤さん。
しかし、2ヵ月後には、資金がショートしかける事態に。
これが、第1波です。
このままだと年が越せない、餅を食っている場合じゃない。
元銀行員として、お金を調達し工面する能力を発揮しました。
もちろん、承継前には金銭的な話も聞いていましたが、正直に言えば「こんなに早く減ると思っていなかった」。
想像の倍ぐらいのイメージで、手元の現金がなくなっていきました。

収穫期間の変更など、ややイレギュラーな点はあったものの、突如仕入れ代が払えない状況になりかけた関澤さん。
ただ、このときは借入で乗り切り、無事年を越すことができました。
次に第2波が来たのは、2021年3月です。
とにかくピークが早い。
今後は、販路問題です。
これまで収穫量の6割を出荷していた先に、出せなくなってしまう事態が起きました。
事業承継の時点から、確実にリスクになるとは考えていました。
銀行にも、投資の3割ルールがあります。
投資に回すお金は、3割以内に抑えておきなさいという考え方。
だから、ポートフォリオが6割で固まっているのは、リスクがある。
一発何かが起きたら大変なことになる。
そして案の定、問題が起きたんです。
出せなくなった理由は、相手会社の上場です。
冬場であれば、トマトは常温で1週間ほど持ちます。
浅小井農園では、首都圏向けの配送の際、輸送コストを下げるためにある程度のロットをまとめて送っていました。
しかし、上場に伴いルールが変更。
2日で廃棄することが決定してしまいます。
もちろん、交渉しました。
焦りましたし、意味がわからないから。
でも、結論は変わりません。
なぜなら、上場するから。
これがCSRだということで、引き下がらざるを得ない。前向きに他の販路開拓を目指しました。

ただ、当時は新型コロナ感染症の感染拡大中。
担当者に会いたくても、担当者も自宅勤務のため、会うことさえもできません。
メールと電話をひたすら繰り返し、ようやく2、3件の販路を見つけることができました。
ただ、先代の頃と比べると、利益率は悪化しています。
元々の取引先との条件が、かなり良かったので。
それでも、せっかく穫れたトマトを捨てるよりはマシかなと。
あとは、滋賀県の販路開拓のプロにも頼っています。
15年目のトマト農家が県に頼り、販路を開拓するのは、プライドを捨てているようなもの。
ただ、四の五の言っていられる状況ではありません。
今は、プランナーに入ってもらって、販路の見直しを進めています。
銀行員も起業家も「ストレス耐性」が重要
事業承継から立て続けに波に襲われた関澤さん。
2年が経った今、改めて感じるのは「世の中、そんなにうまくいかない」ということ。
思い描いた通りに進んだとしても、波が襲ってくる。
その波をどれだけ乗り越えられるかが全て。
銀行に転職したとき、先輩に「銀行員にとって、一番大切なもの」を質問しました。
先輩の答えは「ストレス耐性」。
デリバティブに詳しいとか、投資の知識があるとか、ポートフォリオを組むのが上手いとか、決算書を見るのが上手いとか、そういうことじゃなかった。
とにかく、銀行では鋼のメンタルが一番重要です。
少なくともメガバンクの行員に求められる最大のスキルは、ストレス耐性です。

商売をする上で、メンタルの強さの重要性をさらに実感する関澤さん。
知識やテクニックを持ち合わせている前提ですが、「常に前向きにいけるかどうか」「ストレス耐性があるか」が重要だといいます。
事業承継2ヵ月で、立て続けに想定外の波に襲われた関澤さん。
ストレスに対して、どのように乗り越えたのでしょうか。
自分の場合はもう、海の中にいるのになぜかケツに火がついている。
そんな訳のわからない感じです。
溺れているのに「熱っ、熱っ、熱っ」という感じ。
「早く楽になりたい」「安定したところに座りたい」との思いで突っ走ってきました。
正直、今も、販路を失った分の穴は埋め切れていません。
今、工夫をしながら、いろいろ動いている最中です。
ただ、取引先の変更は、関澤さんの都合だけで進められるわけではありません。
先方の仕入れのこともあるため、少しずつ開拓し、少しずつ関係をつくる難しさがあります。
しかし、第1波、第2波を乗り越え、さらに「FURDI」にチャレンジする姿からは、農家の枠を超えるバイタリティを感じます。
代々農業を営む人たちは、農業界から出ないんです。
事業再構築に関しても、低温倉庫を購入したり加工場を作ったりと、同じ業界の延長線で考えている印象です。
でも、自分の場合は、とにかく業界リスクを分散したい。
仮に農業がダメになったとしても「FURDI」があることで、バランスが保てる。
そのような状態になればいいと思っています。

口座を分散し、リスクヘッジを
元銀行員としての経験があり、かつこれまでの第1波、第2波を資金ショートせず乗り越えてきた関澤さん。
今度は、お金が溶けている状況でも融資を受けられるコツについてたずねてみました。
銀行といっても、さまざまな種類があります。
メガバンクだけでなく、滋賀県なら滋賀銀行、ことしん、滋賀中信もあります。
まずは顔を出して、話を聞いてもらうこと。
昔に比べると口座は開設しにくくなりましたが、口座を分散するのはリスクヘッジになると思います。
自分のおすすめは、メガ1行、地銀1行、信金1行、第2地銀1行のような形。
地銀がダメでも、実はメガがOKだった。
メガも地銀もダメだけど、信金がいけた。
第2地銀には、制度融資がある。
このように実際にはいろいろなケースが考えられるため、いくつも引き出しを準備しておくことが、重要だといいます。
あとは「新規与信」です。
銀行は、今、とにかくお金を貸したがっている状態。
だから、預金しかなく、融資残高がゼロの状態のところは、結構チャンスだと思います。
そして、みんな、頑張っている人にお金を貸したいわけです。
だから頑張っている感じをしっかりアピールする。
いかに自分たちをうまく見せるかも重要です。