IROAWASE
株式会社いろあわせ
北川雄士
人に頼ることで得られた
関係性がいろあわせを創る
前編に引き続き、株式会社いろあわせ 北川雄士さんにお話を伺いました。 後編では、転機となった出来事や失敗したこと、「優先順位」の付け方に悩む人へのメッセージをお届けします。
転機となった「しがジョブパーク」の案件
いろあわせにとって、ひとつの転機となったのは、2019年の3月に行われた「しがジョブパーク」の企画提案です。 そもそも事業の数が多く、準備に費やした期間は2ヵ月以上。 1年の事業内容を時系列で整理した上で、個々の目的・ゴールも全て作ることを求められます。
最後は徹夜で30ページぐらいの企画書を完成させました。でも、結果は負けです。 理由は「体制に不安がある」。社員4、5人の会社で、こんな大規模な事業。 無謀なトライだとは思っていたけれど、実際やってみてうまくいかなかったことで、すごく悔しかった。 一方、光だったのは、企画点が1位だったことです。企画は負けてない。 実施体制に不安があると言われたなら、その部分をなんとかしたらいい。次の1年は、失敗を元に、実績を積むことを頑張りました。 どうしたらうまくいったのか、どうすれば相手の不安を払拭できたのか。ひたすら考えた1年でした。
翌年、2020年3月にリトライ。その後、毎年いろあわせが勝ち続けています。 ただ、毎年仕様も変わるため、“去年と同じ”ではなく、新しい提案を繰り返す3年間です。 そもそも「しがジョブパーク」自体は、滋賀県が運営する総合就職支援施設です。 その中で企業と求職者の出会いの場をつくるため、研修したり、イベントを開催したりしている北川さん。 実際に取り組む中で、想像外のことも起きているのでしょうか。
「こうすればうまくいくのに」と思っていたことが、実際やってみたらうまくいかない。 人も集まらないといったことは、結構あります。だから申し訳ないなと。 例えば事前登録者が100人、当日参加が60人。このとき、不参加の40人にメールで連絡するんです。 「すみません、こちらに何か不手際があり、当日参加されなかったと思うんです。 無記名・ぶっちゃけで、こなかった理由を教えてほしいです」と書いて、フォームのURLを送るんですね。 すると半分くらい回答が来る。読んでみると僕たちが気づいていなかった理由が出てきます。
案内がちょっと雑だった、最後のプッシュが弱かった。 日時の都合が合わなかったなど、理由を知ることで、新たな発見があります。その上で、次の開催には、反省を踏まえた企画をつくっていくという北川さん。 より良いものを目指すものの、常に右肩上がりの結果ではないといいます。
社会が変わっていきますから。 例えば、学生の就活は、コロナ禍で変わっています。就職氷河期世代の人たちは、社会背景や事情によって動きにくさを感じているなど、本当にいろいろあります。 うちの企画がうまくいったからといって、結果が常に右肩上がりかというと、それは別。多分、交互。 ちょっとずつ上がって、下がる。でも前の学びを活かして下がり幅を抑えて、またちょっと上がる。 じわじわ波を描きながら、ちょっとずつ良くなっていくものじゃないかなと。
失敗談はまだまだ尽きません。特に多いのが、印刷物。誤植、写真の間違い。 過去には、1ヵ所の間違いのために、20ページほどある分厚い冊子4千冊を捨てたことも。
他にも差し替える予算もないからと、全員で、夜な夜な何千冊とシールを貼り続けたこともあります。 その上で誤植のお詫びを入れました。それから、ダブルチェック、絶対間違えないようにと意識も変わりましたね。
5〜10人規模の会社の社長、全部背負いすぎ問題
10人以下の規模で起業した地方の社長には、社長自身がボトルネックになっていることが多い印象があります。 北川さんも例に漏れず、常に忙しい印象です。
「確認してください」と言われているのに、確認していないこと。 毎日どれだけあるか。本当に申し訳ないと思っていますよ。「ごめん、まだできていない」と毎日謝っている気がします。
中小企業・小規模事業所において、社長がプレイヤーである以上、なかなか解消されにくい課題です。 地方に限った話ではありません。
ただ、プレイヤー的な仕事は、今、気持ち程度減らしているんです。 制作の案件は、比較的僕が関与しなくても、営業、ディレクター、デザインそれぞれの担当者がいることで問題なく進むケースが増えてきています。 正直「断るのが怖い」という気持ちもあります。「頼まれごとは、試されごと」とも言いますから。 受けるのはいいけれど、多分自分のキャパシティーを見誤ったまま、受けてしまっている部分もある。だから、最近は断る勇気も必要だと強く思います。
断る勇気の大事さに気づいた北川さんですが、実際には断ることはほとんどありません。 知らない人から起業の相談を受けたり、学生から就職の相談をされたりすることも。
週1ペースで相談を受けている気がしますね。現実には「確認事項」の山が残っている。 本当は、人の話を聞く前に、ほったらかしにしていることと向き合わないといけない。優先順位が間違っているんです(笑)。
優先順位に悩む前に「ごめん」と「ありがとう」を伝えよう。
優先順位の付け方に悩むのは、誰しも一度は通る道ではないでしょうか。起業家にとっても同じこと。 確認すべきことがたくさんある。でも、他にもやることがいっぱいある。その上、面白そうな話がいっぱい降ってきた。 この状況下で、北川さんにアドバイスを求めてみました。
「ごめん」と「ありがとう」をちゃんと言うことが大事だと思います。 これは、自分でも意識していることです。「待たせてごめん」「やってくれてありがとう」をきちんと伝える。 そしていろいろな人を頼る。自分がやらなくてもちゃんと会社が回るように、任せていく。 これは、自分に対するアドバイスでもあります。 起業家を目指す人は、自分で抱えがちな人が多い印象。そう考えると、僕は、まだまだ自分で抱えてはいるけれど、かなり人に頼ってきた7年間だと思います。 そうじゃなかったら、今のような形はできていないんじゃないかなと。
「ごめん」と「ありがとう」をいっぱい言ってきたことが、ここまで来た理由のひとつかもしれないと語る北川さん。 今、いろあわせとしてやっていることは、自分にはできないことだといいます。
僕はデザインもできないし、パンフレットもつくれない。謎解きもつくれない。 毎日の行政施設の運営もできません。僕ができないことばかりをできる人たちが集まって、いろあわせができている。 そういう意味で、本当に「ありがとう」と思っています。