今回お話をお伺いしたのは、ANTELOPE(アンテロープ)株式会社代表取締役の福井駿さん。
ハチミツと水、酵母だけでつくる醸造酒「クラフトミード」を製造する国内初の会社です。
会社設立のきっかけや今後のビジョンについてお話を聞いてきました。
うまくできない。だからクラフトミードは面白い。
ANTELOPE設立に至ったきっかけは、クラフトビールの会社に勤めていた福井さんと谷澤さん(現取締役)が意気投合したこと。
2人は独立を目指し、クラフトビールを研究。
そして、ある日「MIKKELLER BEER CELEBRATION TOKYO(ミッケラービアセレブレーション東京)」のイベントへと参加。
世界中のブルワーさん、僕らが尊敬してやまないブルワーさん達が集まり、ビールを飲みながらお酒について話してくれるイベントです。
その中で1組だけ、ミリダリー、ミードをつくっている会社がいらっしゃった。
さまざまなビールが集まる中、はちみつ酒はすごく特異な存在でした。

それが、アリゾナにある会社「スーパースティション・ミーダリー」。
福井さん自身、それまでミードの存在自体は知っていたものの、まだ飲んだことはなかったといいます。
飲んでみたら、すごくおいしくて、面白いなと。
帰ってからも飲みました。ミードはおいしい。
同時に、つくった後においしくするためには、こんなにも難しいんだとも感じました。

既にクラフトビールづくりを学んでいた福井さん。
「発酵」という分野では、共通点はあるものの、はちみつを発酵させる難しさに直面。
モノづくりを進める中で、難しい方に集中しちゃいました。
ビールは、そこそこおいしくつくることができていたんです。
でも、ミードは、最初全然おいしくできない。
悔しくて、ムキになりながらつくるうちに「ミードをメインにしてもいいんじゃない?」という考え方にシフトしました。

うまくできない。だからこそ、作り手である自分たちも面白い。
そんな思いを元に、勢いでスタートしたミードの事業。
幸いなことに設備自体はビールと同じ。
それでも、作り方については今も試行錯誤が続くそう。
一体どうすればミードがおいしくなるのか、誰も知らないし、周りにも教えてくれる人がいません。
海外の人に質問したり、自分達で調べたりして、少しずつつくっていきました。
未だに僕たちは勉強中だと思っています。
ローカライズで目指す“ミード”の販路開拓と事業化
クラフトビールの認知度は高まりつつある印象ですが、クラフトミードの国内認知度は、高いとは言えません。
「聞いたことがない」「どういったものかわからない」といった人が多い状態から、どのようにして販路を開拓し、事業化への道筋を立てて行ったのでしょうか。
まず前提として、自分たちも、認知度が低いことをわかっています。
一般認知なら、1%もないでしょう。
お酒が相当好きな方なら「聞いたことがある」人は、いるかもしれません。
それでも、飲んだことがある人は0.1%くらい、1000人に1人くらいかなと。
僕も、ミードの事業を始めようとしなければ、飲んでいなかったかもしれません。
ただ、最近は単なる消費ではなく、自分のライフスタイルの選択としての消費を選ぶ人が増えている印象です。
ブランドの数も増えていますよね。
着る服にこだわる人がいるように、飲むお酒をこだわって選ぶ人もいます。
クラフトミードも、選択肢のひとつ。
「選択肢がひとつ増えたら嬉しいでしょ」という考え方の元、世の中への浸透を目指す福井さん。
アプローチ方法のひとつとして、日本のフード、食事に合うことをテーマに掲げています。
海外には、昔からミードが存在しています。
でも、日本では流行っていない。
それはなぜかといえば、日本の土地に合っていないとか、繊細な和食は、食中に甘口のお酒が合わないとか、流行らないなりの理由がちゃんとあるんです。
だから僕たちは今、日本の素材、日本のフルーツを使ってみたり、食中に合う味を探したり、ローカライズしています。

伝統的なミードの作り方をリスペクトしつつ、日本に合う形に組み替える。
自由な発想を大切にする。
ANTELOPEのオンラインストアには、ピンクグレープフルーツに唐辛子を加えたり、キウイを使ったりとさまざまなアイテムが並びます。
僕たちは、ミードづくりに対してものすごくこだわりがある人からは「それってOKなの?」と、思われてしまうようなことにも挑戦しています。
でも、まずは一回振り幅を広げて、可能性を探る。
これが僕たちのやっていくべきことだと思っています。
そういう人たちがいても、面白いじゃないですか。
目の前にいる1人に「おいしい」と言ってもらいたい。
クラフトミードの新しい市場をつくる。
それは、つまり、まだ市場がないということです。
お客さんの顔も見えない。製造しても買ってくれる人がいるのかどうかもわからない。
その状況でANTELOPEは始まっています。
まさに、何ひとつ確証のない状態からスタートしました。
ただモノづくりをする上で、最初に大事にしなきゃいけないことは、目の前にいる1人においしいと言ってもらえること。
目の前の1人がおいしいと言ってくれた。さらに別の人に勧めてくれた。
その繰り返しであり、僕たちが取り組んでいるのは、そういう人たちを探す旅です。

もうひとつ、ANTELOPEが大事にしているのは、いろいろな人に飲んでもらい、意見を取り入れていくこと。
今もその方法を続けているからこそ、好きな人に好きと言ってもらえる味が生まれていくそう。
広告費は1円も使っていません。
今も、じわじわと口コミで拡げてもらっています。
その力は、偉大。
まだまだ道半ばで偉そうなことは言えませんが、これからも根強いファンを増やしていきたいです。
10年後も、この場所で新しい挑戦を
ANTELOPEのビジョンは「お酒でファンタスチックな縁を」。
僕が思うお酒の本質的な価値は、お酒を酌み交わし、人としゃべって、仲良くなれること。
人と人の間に入って、コミュニケーションを豊かにしてくれるもの。
まずは、おいしいお酒をつくります。
そして、その波及効果で、お酒で繋がる縁、自分達の人生を豊かにしてくれるような縁をいっぱい作っていきたいです。
ANTELOPEのロゴの三角形には、キャンプテントのイメージも込められています。
アウトドアが好きな福井さんならでは。
みんなで楽しめる場所に、お酒もあればさらにいいよねと思っています。
でも、僕たちが提供するものは、単なるお酒だけじゃない。
お酒を含めたホールパッケージとしての価値観。
これから先は、人の繋がりが生まれる場所をつくっていきたいです。
例えば、アウトドアの施設。酒屋さん。居酒屋さん。タップルーム。
何をつくるかは、まだわかりません。
でも、特別な場所、僕らが目指す先の世界を体現するみたいな場所にできれば。
そして10年後も、規模自体は変わらず、この場所で新しい挑戦をやっていたい。
自分たちが、なんとか食べていけて、面白い、最高に挑戦しているなって思えることをやっていきたいです。

前編ではANTELOPE株式会社の事業内容、これからについてお伺いしました。
後編では起業家・福井駿さんについてさらに深くお聞きしていきます。