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U.C.T.corporation

株式会社U.C.T.corporation

増村匡人

事業と資金と人
背水の陣から逆転した
危機の乗り越え方

前編に引き続き、株式会社U.C.T.corporation代表取締役社長の増村匡人さんにお話を伺いました。 後編では、起業から10年で「SPOON」の店舗売却を考えていた話や、U.C.T設立の理由、資金難を乗り越えた方法についてお届けします。

10年10店舗。10億円で売却するストーリー。

26歳で起業した増村さん。 25歳の時点で描いていたのは「10年で10店舗をオープンさせる。10億円の売り上げをつくり、10億円で売却する」というストーリー。 10店舗を達成した35歳の時点で、売却を検討。

売却の条件は、100店舗に増やしてくれること。 そもそも、レストランが提供する食事は、基本的に添加物が多いです。 無添加のレストランを日本中に拡げたいという純粋な思いがひとつ。 そして、僕にはもうひとつの本業、紅茶販売があります。 ただ「SPOON」が100店舗あれば、一切営業をしなくていい。 これはwin-winだなと思いました。 だから、最初の10年間は店を育てる期間。ほとんど自分の給料を受け取っていません。売る前提で全てを進めていました。

しかし、社員を集めて売却の話をしたところ、猛反発にあったといいます。 変わるのは、オーナーだけでチャンスが拡がる、社員にとっても良い話だと考えていた増村さんからすると、想定外の反応でした。

10店舗にまで増えたとはいうものの、退職金積立制度も財形貯蓄もない、中小零細企業です。 さらに店舗を増やすために、僕は一体いくら借金しなければならないのか。そのリスクを負いたくないと思いました。 年商何百億の会社なら、レストラン以外にも、ホテルやゴルフ場を運営しているかもしれません。 他の事業もあるでしょう。社員が年齢を重ね、レストランで働くことが難しくなったとしても、社内で次のキャリアの受け皿があるわけです。 スーパーバイザーやエリアマネージャーなど、現場で働く以外のステージが生まれるかもしれません。 年商5億円から、一気に年商数百億円の会社に就職する。 これは「すごいステップアップだ」という話をしました。 ただ、変化を嫌うスタッフにとっては、安心と安定をそがれることは、好ましくなかったのでしょう。

その後、反発したスタッフは、全員が退職。 レストランは、もともと独立しやすい形態です。 自分でやりたいことを行うこと自体は、全く問題ありません。

ただ、辞めた人よりも、それでも残ってくれた人が、ハッピーになってほしいとの思いはあります。 既存の店舗の一括売却は中止しましたが、店舗は全て店長に譲りました。 今は、僕の直営店はなく、全ての店舗を元スタッフが運営しています。

紅茶を拡めたいと会社を設立。資金難を乗り越えた方法。

増村さんが株式会社U.C.T.corporation(以下、U.C.T)を設立したきっかけは、「紅茶が好き。紅茶のよさを拡めたい」というシンプルな思いからだといいます。 しかし、ムレスナティーの販売代理店、問屋としての立ち位置である以上、資金面では苦労したことも。

正直、こんなに好きな紅茶なのに、こんなに苦しいのか。 ただ紅茶を拡げたいだけなのに、こんなにお金が飛んでいくかというぐらい、キツい思いをしました。 もちろん、商売に対する自分の至らなさもあります。 ただ、問屋価格で設定しているため、ロットにも責任が生まれます。 自分が貯めてきた預貯金全て含めて、全部紅茶に変わりました。 一人で住んでいたマンションの、全部の部屋が紅茶で埋まった時代があります(笑)。

少しでも安く仕入れた方が流通しやすいものの、年間の契約ボリュームを背伸びしすぎた結果、借入もマックスに。 貯金がなくなり「給料を紅茶で払わせてくれ」と思うほど、追い込まれることに。 ここで気になるのが、資金難の乗り越え方です。

年末、ハイペースで出展する中、一気にキャッシュアウトしました。 ここで、僕の師匠であり、輸入元・ムレスナジャパンのディビットさんに連絡。 「社長、これ以上紅茶を仕入れたら、僕、倒産します。倒産したら社長も困るでしょう」と伝えました。 要は、当初の契約内容をちょっとゆるめてよという相談です。 僕の言葉を聞いた社長は大笑い。 「俺は、何度も乗り越えてきたからわかる。乗り越え方を教えたる」と言われました。もちろん、食いついて聞きますよね。 「どうすればいいんですか、頑張りますから教えてください」、と。 また、ガハハと笑われて「もっと紅茶を買うことや。紅茶送っておくわ」って。 そして電話を切られ、本当に紅茶も届いたんです。このおっさん、めちゃくちゃヤバいなと思いました。

当時の増村さんは、次の支払い日までに現金化しなければ、代金を支払えない可能性が高い状況。 完全に背水の陣です。言い訳や責任転嫁をする余裕もありません。

一旦冷静になって考えました。 ムレスナティーは、クオリティも高く、人気があります。 だから、これまでは、自ら営業に行くこともありませんでした。 問い合わせに対しても「まずは野洲まで来てください」と伝える。今から思えば、ちょっと高飛車な態度です。 そこで、これまで問い合わせのあったところに対し「もう一回プレゼンに行かせていただいてよろしいでしょうか」と連絡しました。 1年間全国行脚です。それから、半年くらい経ったら、在庫はキレイになくなりました。

今だから言えることかもしれませんが、増村さんに対し、最後のスイッチを入れたのは、ディビットさんの言葉と行動です。 「乗り越える方法は、買うこと」だと言い、紅茶を追加で送ってきたことで、新たな気づきが生まれたといえそうです。

「プッシュ型営業」と「プル型営業」のうち、僕たちが基本的に行っていたのは、プル型営業。 「買って、買って」というと足元を見られるため、決してプッシュ型営業はしないと決めていました。 今思えば、ブランド戦略に凝り固まっていた状態。 でも、いただいた問い合わせに対して「ありがたい」との気持ちで、対応を変えたことで、一気に年商が何倍にもなりました。

今、改めて現在の店舗オーナー、スタッフに対して思うこと

危機を乗り越え、U.C.Tがたどり着いた考え方が、ワンミッション。 事業の目的は、ムレスナティーを拡めること。とてもシンプルです。 スタッフにとっても、迷ったときや悩んだときに、「ムレスナティー拡大につながるかどうか」の判断基準が生まれています。

U.C.Tは、ミッションバリューが生まれました。 ただ、「SPOON」に関しては、今は、本部しかありません。各FCオーナーが、自分たちで最適解を探している最中です。 僕が直営で1店舗だけやっていたときのお店が好きだと言ってくださる方も多いです。 それは、家具、雑貨、インテリア、料理など、僕が思う「好き」が詰まったお店だったから。 これは、1号店の強みだと思います。 今は、いろいろなオーナーさんの手に渡りましたが、まだ各自の個性が出し切れていない状態。 でも、事業は何十年を続いていくものであり、カフェは表現の場。 みんなが自分らしく、表現してくれたらいいと思っています。

「SPOON」のカフェ売り上げが、順調な理由は、添加物を外し、常にいい生産者さんを探し続ける。 労働基準法を遵守し、スタッフの健康を考える。 もちろん、まだ完璧ではない部分もあるものの、そういった安定・安心感が集客につながっていると増村さんは考えています。

だから「SPOON」のオーナーさんには、無農薬や減農薬、無添加を追求し続けてほしいです。 あとは、地域の情報発信基地として、情報を発信し続けてほしい。 事業継続のためには、この取り組みが大事だと思います。 スタッフに対しては、懺悔の気持ちが強いです。 僕に魅力があり、スタッフを誰も辞めさせることがなければ。最初から売ることを考えず、事業を動かしていたら。 きっと、もっと会社が大きくなっていたでしょう。 そういう部分も含めて、自分は情報弱者。 もっと勉強しておけばよかったと思うと同時に、今、こうやって話をする機会がもらえたこと、起業家の役に立てることを、ありがたく思っています。

日頃、メディアに出ることの少ない増村さん。 今回、貴重なお話を伺うことができました。 特に資金難の乗り越え方は、起業家、実業家の方にとっても、大変参考になったと思います。 同時に、事業の方向性に迷ったら原点に戻ることの重要性を学ばせてもらいました。

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