WALLABY
株式会社Wallaby
宮村利典
「何か事業をしなくては」
公務員を16年勤務後に
湧き上がった「まち」への思い
今回お話をお伺いしたのは、株式会社Wallabyの宮村利典さん。
設立の経緯や事業内容、5年後のまちづくりビジョンについて気になる話をお届けします。公務員を退職し、Wallabyを設立
2015年4月、株式会社Wallabyを設立。
2022年4月に8期目を迎える宮村さんの前職は、滋賀県職員でした。滋賀県職員として16年間勤務しました。
退職までの数年間は、県職員として働きながら、土日を使い、 父と一緒に「まちや倶楽部」の活動に参加していたんです。2012年6月に始まった、「まちや倶楽部」のプロジェクト。
祖父の時代から、不動産賃貸事業を営んでいた宮村家。 昔の酒蔵の跡地が処分される話を聞き、宮村さんのお父さんが土地を購入。酒蔵は、少し変わった場所。
個性も味わいもあるため、残しておくことで、 今後観光など何かの役にたつんじゃないかと取得して活用する話が生まれました。 そのときに、地元の商店街の人、当時の市役所の方々が「一緒になってやろう」と集まり、イベントなどに使用したんです。 全部で3、4年ぐらいですね。これがまちや倶楽部の活動です。しかし、建物を維持するためは資金が必要です。
収入と支出のバランスが成り立たないと、継続はできません。 「核となる事業をつくろう」という話が、ずっと出ていたなか、 県職員だった宮村さんの背中を押したのは、地域の福祉担当業務に就いたことでした。当時の僕の職務は、地域の民生委員さんや社会福祉協議会さん、ボランティア活動の方の支援です。
いつも話題になっていたのは「隣近所、両隣の助け合いは、もう成り立たない」ということ。 若い人が減り、一人暮らしの高齢者が増えている現実がありました。課題を感じる中、宮村さんが業務を通して出会ったのが、NPO法人の人たちでした。
障害がある人たちが働く場所をつくる、介護が必要な高齢者の方を預かる施設を試験的に運営するなど、 福祉的に成り手がいない中でも、さまざまな事業を立ち上げる人たち。課題に対して、新しい事業を考え、事業として成り立たせ、
解決することをひたすらやっている人たちがいる。この人たち、本当にすごいなと思ったんです。 公務員の仕事も大事だけれど、もっと事業を起こす側に人が回っていかないとダメなんじゃないかと感じ始めました。 誰かに「やれ」と言われた訳ではありません。でも自分の中で「何か事業をしなければ」の気持ちが湧き上がってきました。まちや倶楽部の活動をする中で、
商店街の高齢化率が高くなっていることに気づいていた宮村さん。 これから、空き店舗が増え、若い人が減る中で、元酒蔵をどう活用するのかと思ったそう。僕としては、いろいろな人に来てもらって、お店が増えて、にぎやかになる未来を描きました。
人がいなくなって高齢者の人たちの困りごとが増えていくことがないようにしたい。 決して簡単ではありませんが、そんな風につながればいいなと。 商店街に新しい人の流れができるように。若い人が、外に出なくてもこの場所で稼げるように。 観光と絡めて、事業ができるんじゃないかと考え、退職して会社をつくりました。宿泊施設、コワーキングスペース、ホステル。
Wallabyでは、現在、
宿泊施設「MACHIYA CLUB CULTURE & STAY 近江八幡まちや倶楽部 -文化と出会う まちなかの宿」と、 バックパッカー向けのホステル「Little Birds Hostel」を運営。 コワーキングスペース運営事業や伝統工芸品等の展示販売ショップ運営事業、貸店舗事業なども実施しています。創業当時は、この地域に宿泊施設が一軒もない状態。
近江八幡市周辺にはまだコワーキングスペースもありませんでした。 今までの商店街や観光とは、また違う人たちが行き来するんじゃないか、 それがまちづくりにつながるんじゃないかとの予感から、最初に始めたのが、 古い町屋を使った宿泊施設とコワーキングスペースの運営です。貸店舗事業では、現在6店舗。
テナント募集はしておらず、入居者の知り合いの知り合いといった形で、 およそ1年に1店舗ずつのペースで増えているそう。おかげさまで、いろんな出会いがありました。
入ってもらいやすいように、自社で改装しているため、まだ元が取れていない部分もあります。 でも、うちの宿だけがあっても、周りにお店がなかったら面白くないですよね。 いろいろな人が集まり、新たな意見が出てくる。 新しいお店が入ることで、そのお店のお客さんが商店街に来てくださる。 いろいろなお店が集まる面白さを実感しています。事業としての継続の難しさを日々、痛感しています。
創業から6年が経過したWallabyですが、事業としてはまだ道半ば。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、宿泊事業の売上が悪化。しかし、なんとか継続している状態とのこと。継続、事業という点からお話ししておきたいのが、
クラウドファンディングサービスのプラットフォームの事業をしていた時のこと。 地域活性につながる事業であり、僕自身、面白くて一生懸命取り組んでいました。 市役所などの行政機関や、信用金庫さんなどの金融機関など、さまざまな関わりが増え、仕事の受注が急増したんです。 しかし、当時動いていたのは、ほぼ1人。手が回らなくなり、仕事が処理しきれなくなる事態に。その後、一切の事業は、地元の印刷会社に譲ることに。
事業の難しさを知る、ある意味いい機会だったと話す宮村さん。いくら熱く語って仕事をとることができても、約束通りに納品する、当たり前のサイクルが崩れてしまいました。
でも、よい譲渡先を見つけることができ、今も、事業を拡大されています。本当にいい勉強になりました。5年後、2027年に目指す2つのビジョン
6年前と比べると、面白いお店が増えコミュニティが生まれている近江八幡。
さらに5年後のビジョンについて、たずねてみました。まず、1つは近江八幡、滋賀県に昔から残されている建物や文化をうまく活用し、ビジネス化したいです。
我々やもっと若い世代が仕事をして、にぎやかなまちになるように。今まで同様、この路線で頑張りたいです。 古い建物を生かす方策についての話があれば、これからも積極的に事業化について考えていきたいですね。 2つ目は、酒蔵の建物の改修と活用です。 会社設立前も含めると、10年くらいかけて改修を続けています。 宿泊施設、雑貨屋、飲食店、観光客の方が休憩できる場所が集まっている状態。 奥ではアートの展覧会が開催できる。 貸し会場でも、できるだけ頻繁にアートの展示などに活用してもらえるよう、施設全体としての完成度を高めることを目指しています。滋賀県の調査では、八幡堀を訪れる観光客は、およそ年間70万人。
その半分、35万人が訪れる施設を目指したいという宮村さん。 観光入込客数調査の上位に入れば、自ずと商店街一帯にも注目が集まり、さらに新しい人がチャレンジする場が生まれます。うちの物件に入るかどうかではなく、他の空き店舗を含め、いろいろな人にとって魅力的な場所をつくりたいです。
今、Uターン、Iターンを考える人が増えているでしょう。 仕事もセットで探している人に「ここ、いいね」と見てもらえるエリアになったら、 このまちにとっても、いい感じになるんじゃないかなと。ゆくゆくは、そんなまちを目指しています。前編ではWallabyの事業やこれから目指す未来の方向性をお伺いしてきました。
後編では、宮村さんの体験談や起業を目指す次世代の方へのメッセージをお届けします。