TimeLab
株式会社タイムラボ
保積 雄介
続けていく限り、うまくいく可能性が絶対ある
会社が死なないことが大事。
前編に引き続き、株式会社タイムラボ代表の保積雄介さんにお話を伺いました。 後編では、スタートアップの心構えや失敗談、起業のリスクに関する考え方をお届けします。
経営者を救うのは、生き残るためのサバイバル力
現在のプロダクトは、カレンダーの統合管理サービスです。 2000年代にスーパーエンジニアが作ったGoogleカレンダーのようなものを、改めて作るイメージ。 時間がかかるし、大変だという前提です。最初の4、5年はおそらく売り上げが立たない。 10年かけてやると、覚悟の上で取り組んでいます。
ただ、いくら覚悟を決めていても、現金の残高はリアルな現実を突きつけてきます。 保積さんも、創業期は、個人のお金と会社のお金がほぼリンクしていました。
会社の残高が10万円切っていることもザラにありました。 毎月、共同創業者と「今月、どう乗り切る?」と話して、家のお金を会社に出して乗り切っていました。 決していいことではありませんが、子どもの学資保険、教育資金を解約したこともあります。
受託ではなく、いつ売り上げになるかわからない部分にチャレンジする。 ただ、スタートアップであっても、稼ぐ手段はあったほうがいいと語ります。
起業家は、鬱になる割合がめちゃくちゃ高い職業と言われています。 常にメンタルが不安定、常にお金の心配をしている状態の心は、健全とは言えません。 もし、安定的に稼げる軸があるなら、ちゃんとやりつつ、その上にスタートアップ的な取り組みをやればいいと思います。 実際、僕も受託もやっています。 僕たちは、プロダクトを作ることが得意。あまり開発のノウハウがない会社や大企業の新規事業に対して、スタートアップ的なアプローチを教えることもあります。
安定的な収益をとりつつ、スタートアップ的なサービスを伸ばすために投資する。 良い流れが生まれています。
会社が死んでしまえば、サービスを提供することもできません。 大事なことは、死なないこと。周囲の友達やスタートアップの経営者にも、危機を乗り越え、しぶとく生き延びている人は多いです。 誰かから出資してもらう、自分でお金を集める、売り上げをつくる。 方法はさまざまですが、生き延びるためのサバイバル力は、めちゃくちゃ大事です。
2020年の最もキツい失敗を乗り越え、2021年のゴールへ
成功より失敗の方が多いと話す保積さん。 最もキツかった失敗談について尋ねてみると、2020年に作った日程調整サービスについて話してくれました。
当時、1ヵ月ぐらいで、最初のプロトタイプを作成。 デザインとフロントをユーザーが利用できるレベルのクオリティに引き上げるため、業務委託のメンバーも入れました。 本来2ヵ月ぐらいで世の中に出すつもりが、半年以上かかり、結果的に時間とお金を溶かすことに。 コアメンバーと業務委託メンバーの熱量の差や、プロダクトに対する理解度の差も感じました。
業務委託メンバーは、副業としての関わり方であり、コミットの弱さも感じられます。 さらに納期も遅れ、納得いくクオリティとは言い難い状況。 毎月の資金繰りも苦しくなりました。
事業が伸びていくと、チームも盛り上がります。 ただ、進捗がなければ、熱が失われていく。それが辛くて、2020年の1年間は、ずっと死にそうになっていました。 そして年末、辞める意思決定をしました。 コアメンバーは残りましたが、コミットが弱いメンバーやサポートとしての関わりのメンバーなどは、一旦リセット。 メンバーのことは信頼し、能力も認めていましたが、副業としての関わり方は難しいことも感じました。
2021年は、新たに残ったメンバーで取り組むことに。 1年間取り組む中で、現在のプロダクトの方向性が決定。 プロダクトのプロトタイプを作り、β版をリリース。掲げたマイルストーンをこなしていきました。
資金繰りでもショートしそうだったので、一旦1千万円のお金を集めました。 相談したのは、普段からよくしてもらっている経営者の方です。 会社にではなく、僕個人に貸して欲しいと依頼。何も言わず、出してもらったのは、人と人との信頼関係の部分だと思います。 ここで救ってもらえたのは、大きいです。 なんとか乗り切れるポイントがあり、結果的に2021年に目指していたゴール地点に到達することができました。 それから「いけるな」と感じ、事業を継続しています。
心の底から情熱を持ち、解決したいと思える課題があるか
資金がショートしそうな状況を乗り越え、現在も事業を継続している保積さん。 苦しいときにも、自分を保つことができる理由について尋ねてみました。
起業するとき、心の底から情熱を持ち解決したいと思える課題かどうかが重要だと思います。 「その事業を、なぜあなたがやるのか」の問いに対する答えです。 起業には、産みの苦しみがあります。 お金もないし、サラリーマンとして働いていた方が、安定して給与も得られます。 なんでこんなに苦しいことをやるのかと思ったとき、立ち戻れる軸、ブレない軸のようなものがなければ、絶対折れてしまう。
続けていく限り、うまくいく可能性が絶対ある。 だからこそ、会社が死なないことが大事と語る保積さん。
「儲かるから」「Web3の流れだから」の理由だけで始めてしまうと、揺さぶりが来たときに耐えられない。 僕は、原体験から時間を自分で解決したいと思いました。「TimeLab」は、自分が使いたいサービスです。 だから、やっていて楽しい。苦しいけれど、辞めたいと思ったことは一度もないですね。
自分がやりたいことは、言い訳もできません。 仕事が趣味と言えるほど、時間を費やしています。 そして、その先には、保積さんが解決する課題があり、共感する人たちの課題解決が見えています。
世界中の人の時間、仮に1分ずつムダな時間を削減できたら、めちゃくちゃ大きなインパクトがありますよね。 やる意義も、やる意味もあるかと思って取り組んでいます。
やらないリスクを考える。失敗するリスクは言語化する。
最後に「起業したい」「スタートアップに興味がある」など、何かを始めたいと思っている30代半ばの人に対してのアドバイスをたずねてみました。
やりたいことがある。でも失敗したらどうしようと考える。 「家族がいる」「背負うものが大きい」「チャレンジしにくい」など、できない理由を考えて、動かない人が多いです。 でも、個人的には、NGなことはないと思っています。 間違えて失敗したら、やり直したらいい。リスクを挙げる人は多いですが、“やらないリスク”もあるわけです。 やらなくて後悔したり、得られたはずの未来を掴み取れなかったりといった“やらないリスク”を考えた方がいいと思います。
また、リスクの内容は、具体的に言語化することが大切です。 そもそも、30代半ばで、これまでキャリアを築いている人であれば、手段を選ばなければ、稼げる手段は存在します。
僕もそう考えて、起業の道を選びました。 そもそも、年齢に関係なく、チャレンジすればいい。 また「地方だから」と、言い訳にもしてほしくないです。僕も滋賀県は大好きです。 滋賀県に対して、何らかの形で貢献したいとの気持ちはありますが、滋賀県で起業し、事業をやっている感覚は全くありません。 インターネットを活用するビジネスは、地域を問いません。 だからこそ内向きの目線で地域を見るのではなく、外に目を向ける、そんな風になっていくといいなと思います。