LILO
lilo株式会社
堀勝通
「起業を安易に考えない」
様々な経験をしたからこそ伝えたいメッセージ
後編では、lilo株式会社の堀勝通さんに、 起業家を目指すまでの経緯や起業にまつわる失敗談、起業家を目指す人へのメッセージなどを伺いました。
起業家を目指しメキシコ留学、そしてスタートアップ入社
中学生時代、稲盛和夫さんの著書『生き方』に出会い、「この人のように生きたい」と思った堀さん。 この人のようになるにはどうしたらいいのかを考えた結果、起業家、経営者、実業家になるための行動を逆算。 大学は経営を学ぶために、関西大学の商学部を志望。
大学時代は、すごく真面目に授業を受けていたんです。 でも、大学3年時に「このまま卒業しても経営できる実感がない」と思いました。会社設立のイメージもない。 このまま就職したら、きっと一生わからないままだろうと。 そこで、メキシコ留学を決め、現地のベンチャー企業にインターンとして入社しました。
給料をペソで受け取り、メキシコシティで暮らす。 社長のカバン持ちのような距離感で社長と共に行動していた堀さん。 転機となったのは、社長の知人がメキシコ観光に来たことでした。 その社長の知人とは、東京にあるスタートアップの社長。
メキシコの有名観光地・グアナファトを案内しながら話を聞くと、僕の2歳年上。 メキシコで学んだことも多く、今のliloの事業を含め、根幹にはメキシコでの経験が大きく関わっています。 でも、当時、会社を経営するには、メキシコでの1年間の経験だけでは足りないと思っていました。
インターンが終わるタイミングで、スタートアップの社長に連絡した堀さん。 大学は合計2年休学。長期休暇を含めると、メキシコに1年、東京のスタートアップに1年半。 卒業後は、正社員としてスタートアップで働く中、起業を志すように。
とにかく会社がすさまじい勢いで成長していったんです。 オフィスもどんどん入れ替わる。 めちゃくちゃいい意味で“ヤバい会社”は、血液を入れ替えないと次のステップに進めないんだということを目の当たりにしました。 その中で僕もいろいろと学び、自分なりのタイミングが見えたことで、起業の意思を伝え退職しました。
メキシコ留学でインターン。帰国後スタートアップに入社。 自分で会社を設立し、現在のliloが2社目。 堀さんの経歴からは、キャリアの歩み方に筋が通っている印象を受けます。
僕が感じていたのは、関西と東京で起業する環境の違いでした。 これは、滋賀だからというよりも、大阪でも同じ。関西では、企業の例が身近になさすぎたんです。 でも、東京に行くと、スタートアップの環境がある。 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のような、起業することが当たり前のような学生がいる。同世代でも、スタートラインが全然違う。 だから、僕はもう強引にやっていくしかなかった。メキシコでインターンのような、全く違うキャリアを描く道しかない。 ずっと関西、コンフォートゾーンの中にいると何もわからないまま。 体ひとつで行って、東京のスタートアップで揉まれて、やっと起業とは何か、その輪郭が見えてくるんだと思います。
1社目の起業、準備不足による失敗
東京のスタートアップで勤務し、退職後に会社を立ち上げていた堀さん。 liloが2社目の会社設立経験となる堀さんに、当時のことや起業にまつわる失敗談を聞いてみました。
とにかく当時は「早く起業したい」との思いが先行していました。 とにかく早くハコをつくりたい。「ハコさえつくったらなんとかなる」と思っていたんです。 有給休暇消化中から準備を進めていたので、退職して翌日に会社を設立しました。 親から借りたお金や自分が貯めていた分も入れました。
退職しすぐに創業した場合は失業保険を受給することはできません。 しかし、求職活動中に創業準備や検討をする場合、条件を満たすことで「失業保険」や「再就職手当」を受給できる可能性があります。
母親からは「起業するときに使える制度もあるらしいから、ちゃんと見ておきなさい」と言われていたんです。 でも、僕は行政の書類を読むことにアレルギーを感じていて、全く見ていませんでした。 当時は、会社をつくりさえすればなんとかなると本気で思っていたので。
しかし、堀さんが会社を設立した直後に新型コロナウイルス感染症が拡大。 東京のマンションの一室で生活していた堀さんは、手元の現金も減るばかり。さらに、世の中の経済活動もストップ。
これから起業する人には、制度を調べて使えるものは使ったほうがいいと伝えたいです。 これは、ずるい考え方でもなんでもない。 制度を活用するのは、自分たちの運転資金をストックすることにもつながります。
精神的に追い詰められ、半分うつ病のような状態になった堀さん。 体調も悪化し、滋賀県に戻ってきたのは2020年初夏のことでした。
友人同士の起業のコツは、お互いへの理解とリスペクト
幼馴染である古谷さんと出会い、再び会社を設立。 友人と事業を行うと、上手くいかないといったセオリーがある中、意識していることはあるのでしょうか。
幼馴染とはいえ、古谷とは空白期間があります。 パートナーであり、ビジネスパートナーであることの理解と適切な役割分担がうまくいくコツだと思います。 例えば、資金調達やビジョンの浸透に対する内容は僕。 道具をつくるところは、古谷主導。お互いができるところをリスペクトして役割分担しています。
その上で、馴れ合いではなく議論はあるという堀さん。 お互いの間違いは相手が軌道修正し、議論した上で元に戻すことを続けてきました。 2人の間には、空白期間があるからこその適度な距離感があるようにも思います。
もしも古谷が、幼馴染から小中高校とずっと一緒に育ってきた相手だとしたら、遠慮して言えなかったと思います。 起業家がエンジニアと出会って新しいスタートアップをつくる。 これってよくあるストーリーかもしれませんが、僕は古谷との関係に、近しいものを感じています。
liloのデザイン・見せ方の変化
当初、liloのデザインや見せ方は“いなたい”、 いい意味での土くささやヒップホップカルチャーのストリートの雰囲気に近かったそう。 これは堀さんと古谷さんの好みによるところでしたが、実際にスタートさせてみると、お客さんの層は想定とは全く別でした。 そこで、見せ方やデザインを、徐々に変更。今の形に近づいていきます。
戦後は「モノ消費」、2000年代に入って「コト消費」。 これから、もっと変わると思います。 可処分所得も可処分時間も増え、空いた時間が増える。 どうするのかを考える時間やお金が増えることで、ライフスタイルや生き方を買うようになるんじゃないかと。 その場所に、自分たちは「道具へのカンシャ」を持った生き方を提案、販売したいんです。 サービスも同じ。お客さんと近い距離で、一緒に生きていると感じるサービスをつくりたい。
例えば商品についての問い合わせ。 これまでにも「企業」対「人」の姿勢に、違和感を感じていた堀さん。 自身の好みは、知り合いと話しているような、フランクな感じだといいます。
僕は、ちゃんと空気感があって、画面の向こうで人が返信しているとわかる方がいいと思っています。 即返信ではなくてもいい。だって、人がやっていることだから。 liloが提供したいもの、「道具へのカンシャ」のコンセプトから考えると、その空気感こそがいいサポートだと思うんです。
先輩起業者から未来の起業家へのメッセージ
僕は、必ずしも起業したほうがいいとは思っていません。その理由は、2つ。 まず、1つは「起業を安易に考えないほうがいい」から。 キツいまま、心が傷んだまま走り続けないといけない場面も結構あります。 しかも、頑張れば乗り越えられるというものでもない。人の雇用、取引先さんとの関係。 代表として、合理的な決断をしないといけないこともある。 それでも起業を選ぶなら、パッションがどれだけあるかが重要だと思います。 自分たちは今、「道具へのカンシャ」という生き方を届けたいと思っています。口先だけでつくった言葉なら「こんなにキツイなら、もうやめよう」となる。 パッションが明確ではない状態なら、僕は走らない方がいいと思います。 そうじゃないと危ない。スタートアップは、本当に人を潰すと思っています。 2つ目は、ITをきちんと学ぶこと。 僕自身も勉強中ですが、関西と関東の情報量は全く違うと感じます。 例えば、NFTやWeb3.0(Web3)、メタバースの世界。 自分には関係ないと思わず、新しい情報を得ていかないと、起業や事業拡大はできないと考えた方がいいと思います。
明確なパッションのない状態で、安易に起業しない。もしも起業するなら、ITの部分は学び続ける。 学び続けることが、自分の事業に活かせる部分を見つけることにつながる。
手仕事も、世界的に見れば、淘汰されていくジャンルです。 その中でもどういった価値を乗せられるのか、新しい要素をどれだけ入れられるのかを探すには、 伸びていく市場やITを理解していないとできないアプローチ。 だからこそ、学び続けないといけない。僕も、日々自分に言い聞かせています。